「大人の歌謡曲」は永久に不滅です”!
富沢一誠
「大人の歌謡曲」は売れているというか、売れ続けています。同じような企画が多いなか、「大人の歌謡曲」だけが特に売れるのはなぜでしょうか?
手前みそで恐縮ですが、監修者として選曲を担当した私が最もこだわったことは、歌は生きているので今の私が聴いても歌ってもピンとくる曲をセレクトすること。もっと具体的に言うと、若い頃に聴いてもピンとこなかった歌が年を重ねたときに聴いてみると妙にリアリティーを持って聴こえてくることってあることです。私はこれを歌の「再発見」と呼んでいます。
たとえば堺正章なら若い頃は「さらば恋人」です。北山修作詞、筒美京平作曲の名曲で誰もが知っているヒット曲でもあります。私にとってもそれは同じです。ところで堺には「街の灯り」というヒット曲がありますが、若い頃にはいい曲だけど渋くてピンとこない感じがしていました。ところが、50代になったあたりから、カラオケで歌っていると「さらば恋人」よりも「街の灯り」の方が腑に落ちるというかピンとくるようになったのです。歌うたびにこちらに引かれていく自分を発見してびっくりしたものです。そんな訳で「さらば恋人」ではなく「街の灯り」を選曲しました。
同じような理由で、伊藤ゆかりも「小指の想い出」をはずして「恋のしずく」を選曲してみました。
さらに「再発見」があります。大人のラブソングとして私は菅原洋一の「今日でお別れ」が好きでカラオケでよく歌っていましたが、いつの頃からか、佐川満男の「今は幸せかい」にレパートリーが変わっていました。こちらの方が歌っていると心情的にぴったりとくるようになったのです。同じような理由で菅原洋一の「知りたくないの」が西田敏行の「もしもピアノが弾けたなら」に変わっていました。
加えて「大人の歌謡曲」においては1アーティスト1曲に厳選したことで選曲に妥協が許されないため、収録された90曲は、誰もが知っているアーティストの「これしかない」という究極の1曲となったわけです。つまり、捨て曲は1曲もないということです。
“選曲の妙”というか、こだわりの選曲が独特のカラーを生み、結果的に大人のマーケットのニーズを的確につかんだということでしょう。「大人の歌謡曲」は進化し続けています。そのためには、現実を生きているあなたが必要とする歌を発掘し「再発見」をして「名曲」に育てあげるということが必要不可欠。それが続くかぎり「大人の歌謡曲」は永遠に不滅です。
富澤一誠(とみさわいっせい):音楽評論家。尚美学園大学名誉教授。1951年、長野県須坂市出身。71年、東大を中退して音楽評論活動を始める。以来、「わかり易いキャッチコピーを駆使して音楽を語る」音楽評論家として幅広く活躍。著書に「フォーク名曲事典300曲」「J-POP名曲事典300曲」「あの素晴しい曲をもう一度」など全73 冊。<Age Free Music ~大人の音楽>キャンペーンの総合プロデューサー&パーソナリティーとして活躍中。日本レコード大賞審査委員長。
シティポップからフェイバリットポップを
~『CITY POP COLLECTION』に寄せて
スージー鈴木(楽曲解説担当)
先に白状すれば、昨今の「シティポップ」ブームに対しては、70年代の終わりから音楽シーンを追いかけてきた者として、微妙な思いを抱いていたのです――「そんなん、当時あんまり流行(はや)ってへんかったで」と言いたくなるような。
にもかかわらず、「当時はシティポップ一色の時代で、松原みき『真夜中のドア~stay with me』(79年)が一億人に聴かれていた」などと勘違いしている若者も、もしかしたら最近は多いかも。いやいや、今やみんな知っているあの曲ですら、売上は10.4万枚でオリコン最高28位。そんなに売れてなかったんですよ……。
なんて、ちょっとアンビバレントな気持ちで解説執筆に取りかかったのですが、1曲1曲聴いているうちに、そんな思いなんてどうでもよくなって、というか「きっかけが何であっても、隠れた名曲にスポットが当たるのは、理屈抜きにいいことだなぁ」と思い直したのです
ひとつ例に挙げると例えば、今回のコンピレーションにも収録された上田知華+KARYOBIN『パープル・モンスーン』(80年)。当時中2の私がリアルタイムで愛聴した大好きな曲。「たとえブームの余波であっても、この曲の人気が広がったら素敵やん」などと思い始め、解説執筆のためにキーを打つ指に力がみなぎりました。
「『真夜中のドア』の次は『パープル・モンスーン』やで」なんて、「シティポップ」好きの若者が言ってくれたら、うれしい。
それ以外にも、みんな知っているメジャーなあの曲・この曲に加えて、「あぁ、久しぶりに聴いたけど、この曲めっちゃええなぁ」「こんな曲、よう探してきよったな」と思わせる曲が、たくさん収録されています。解説を1曲・1曲書きながら、権利関係を1曲・1曲クリアしていったスタッフの熱意を強く感じた次第です。
というわけで、「シティポップ」ブームを入り口に、このコンピレーションを手に取っていただき、私にとっての『パープル・モンスーン』のような、あなたの「フェイバリットポップ」を見つけていただけたら、解説担当として、こんなにうれしいことはありません。
なお、私の解説については、楽曲のタイアップ情報にかなりこだわって書いてみました(特に化粧品CM)。あと裏話や余談もかなり多め。そんな、私の筆が滑っているあたりも、ぜひ楽しんでいただければ、素敵やん。
スージー鈴木:
音楽評論家、ラジオDJ1966年大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学卒業。bayfm『9の音粋』月曜DJ。著書に『桑田佳祐論』『EPICソニーとその時代』『平成Jポップと令和歌謡』『恋するラジオ』『80年代音楽解体新書』『弱い者(もん)らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる』『大人のブルーハーツ』など多数。
株式会社 燈音舎 代表
音楽のある風景 責任者
日高 治彦